ノーモア・フクシマ! ノーモア・ゲンパツ！


　「原発事故」とかけて、「ベテラン!主婦（夫）の皿割り」と解く。
その心は「いつかは必ず落として割ります」。

　2011年3月11日、恐れていた、その日がやってきた。
　「もし福島原発で、チェルノブイリ規模の事故が起きたら、風向きいかんでは、東京都も被曝し、人が住めなくなる可能性があります。一坪何百万、何千万する土地も建物も値がゼロになるでしょう。近くに原発事故を起こしたところはありませんが、私たちには想像力というものがあります。松木沢（まつぎさわ）や谷中村の跡を見れば
原発事故の恐ろしさが想像できる筈です。鉱毒だけでも、あれから百年以上がたっても自然が回復していない…」
　これは、今から21年前（1990年7月）、「足尾鉱毒問題から原発を考える」と題して話した講演録の1節だ。より具体的にいうと、この1節は、亡くなった武谷三男さんの持論―原発大事故10年周期説を紹介したあとに続く発言で、まだ東海村原発事故（1999年９月）は起きていなかった。
　ウインズケール（英国）1957年、エンリコフェルミ（米国）1966年、スリーマイル（同）1979年、チェルノブイリ（ソ連）1986年、東海村原発事故はレベル４にとどまったが、武谷さんの10年周期説は、なかなか味のある仮説だといっていいだろう。
　福島原発事故は、チェルノブイリと同じレベル７の大事故ながら、現在のところ（将来はわからないが）、まだ傷は浅く、不幸中の幸いにも、避難地域はまだ東京にまでは及んでいない。しかし、地震列島
たる日本列島には、福島をふくめて54基の原発がある。それら各基の原発から半径100キロの円を描けば、沖縄諸島などの太平洋に浮かぶ島々を除いての日本列島はすっかりおおわれてしまう。フクシマは、明日のわが身というほかはない。
　それなのに、世論調査の結果では、国民の半数以上が原発の維持・推進派なのだ。たとえば、4月4日付の読売新聞は、廃止・減少が41％に対して、増設・現状維持が56％に及んでいる世論調査の結果を発表している。また18日付の朝日新聞も、ほぼ同様な世論の結果を伝えている。依然として多くの国民が原発推進派の術策に取り込まれているようだ。もう一度、こんどは東京や大阪にも多くの被害をあたえる大事故が起きない限り、目が覚めないようだ。
　原発が私たちの生存にとって大問題なのは、このような原発大事故の発生だけではない。政府もマスメディアもほとんど取り上げていないが、「トイレなきマンション」と形容される、原発が生み出す高レベルの放射性廃棄物の処置の問題だ。すでに2万本といわれる、高レベルの放射性廃棄物は、狭い上に地震列島であるこの日本では、どこでも快く受け入れるところはなく、現在に至っても最終埋蔵所が決まっていない有様だ。決まっても、100万年以上、人間世界から隔離されなければならない代物だ。
　日本だけではなく、世界における原発の推進の歴史をみていると、特に日本の場合は、「満州事変」にはじまる14年戦争の歴史が重なって見えてくる。暴走した関東軍が陸軍中枢を動かし、次に陸軍中枢が天皇や政府、財界やマスメディアを動かし、日中戦争を起こし、さらにはその行き詰まりを打開しようとして「大東亜戦争」をはじめ、
日本の破局に突き進んでいった歴史がダブって見えるのだ。世界に無類な「日本魂」があれば、何でもできる。いざとなれば、「神風が吹く」。「一億火の玉」になって戦争を完遂しよう。そこにあったのは、「そのうち何とかなるだろう」という結
果を度外視した、無責任な情緒主義だった。結果は日本の破局だけではなく、中国をはじめアジア・太平洋地域の人々に甚大な被害をあたえた。彼らの土地や家屋に損傷をもたらしただけではなく、2000万に及ぶ人命を奪った。
　もちろん、14年戦争を貫く支配的モチーフは陸軍の覇権であり、日本での原発推進の支配的モチーフは利権であり、その内容が異なっている。元はといえば、原発は核兵器生産の副産物としてソ連に誕生し、欧米に広がっていたものだ。だから、原発は世界的には利権以外、軍事的な覇権も、その推進のモチーフとなっているが、それはともかく、日本陸軍による戦争遂行も、戦後日本における原発推進も、両者とも結果を度外視した、無責任な行為である点で共通しているが、後者には「甘い情緒」はない。この今さえ利潤が出れば、「あとは野となれ、山となれ」（ただし、放射能に汚染された）という冷酷な打算があるだけだ。
　福島第1原発の大事故で、美しい地球の一角が汚染されてしまった。大地も空も海も汚染され、20?30キロ圏内に住んでいた人々が故郷を追われることになった。
ノーモア・フクシマ！ ノーモア・ゲンパツ！一日もはやく脱原発社会を創り出さなければなるまい。

2011年5月